寿司屋で働いていた頃、お客さんで面白い人がいた。
2丁目のマンションに住む、高梨さんだ。 高梨家に配達する時には必ず「7時18分に届けてね」と言われるのである。 届いて、お茶をいれて、7時半に食べられる状態にしたいのだろうと推測していたが、届く前に準備していれば良いじゃないかと思う。 O-157と言う大腸菌が流行していた時期でもあり、世間では食べ物に気をつけているのだろうか、色々な場所で「火をよく通しましょう」などの張り紙を見かけた。 普段通り、7時18分に届けると、高梨さんの奥さんは寿司を見るなり私にクレームをつけてきたのである。 「ちょっと、マグロが赤いじゃない!」 非常に難解な言葉である。 何色ならマグロとして「よし、合格」と言って貰えるのだろうか。 「赤いってさ、大丈夫なの?157が流行ってるじゃない?平気なの?」 その場は寿司として、それ以上何も出来ない事をつげ、代金を貰った。 店へ戻り店長にその事を告げると、「分かった、次から煮て持ってけ!」と言われたので、次回の配達時に「煮ましょうか?」と言ったら大喜びしていた。 「10分以上火を通すのよ?分かってる?」 こうして、冗談で言った寿司の煮物を、私は届ける事になった。 高梨さん宅へ、寿司の煮物と言う非常に珍しい物を届ける最中、「次は何を言われるだろう?」と考えていた。 「ガリが赤いじゃない!」とか、「ちょっと、手袋してないじゃない」とか、「あなた、マスクは?」とか色々あるんだろうなあと。 「ちょっと、この間のお寿司、シャリがちょっとすっぱかったわよ!」 酢飯である。高梨さんの注目はネタでは無くご飯部分にあった。 困った。 次回からは、寿司の煮物をただの白米に載せて持っていく事になる。 と言うか、高梨さんは何故寿司が食べたいんだろう。すでに寿司じゃないでは無いか。 店長に相談すると、「なんかウチを勘違いしてないか?寿司屋だって言ってあるのか?」と確認されたが、寿司のメニューをみて牛丼を注文するようなアニメの世界じゃないのだから、そこは大丈夫だろうと思っていた。 高梨さんに確認すると、激怒された。 「私をバカにしてるの?私はこれでも寿司に関してはうるさいのよ!」 と。 私の目には白米の上に光る、マグロ煮が映っている。 これが寿司なのか。これを寿司と呼べるのか。 しばらくしてその店を辞める事になった。 8年ぶりに店を訪れたら、壁に「タカナシメニュー」と書かれてる一覧があった。 6種類ほどのメニューの中で、一際目を引いたのが、「シャリ無し、ネタ無し」である。 これは凄い。一体なんだろう。 高梨さんの寿司へのこだわりは、本当に凄いものなのだと実感した。
by koublog
| 2005-09-12 09:00
| 愉快な仲間たち
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